賃貸のDIYはどこまでOK?原状回復のルールとできること・できないこと
先に結論
- 賃貸DIYの線引きは「退去時に跡を残さず元に戻せるか」と「契約書・貸主の承諾」の2つで決まる
- 国交省ガイドラインでは、画鋲の穴や家具のへこみは通常損耗(貸主負担)、重い物用のネジ穴や落書きは借主負担
- 貼ってはがせる壁紙・置くだけ床・突っ張り棚でも「100%跡が残らない」保証はない。目立たない場所で試してから
- 壁紙の張り替えや棚のビス留めまでしたいなら、DIY可物件(DIY型賃貸借)を選ぶのが確実
作業カード
- 難易度
- 初心者でもできる
- 作業時間
- 準備と確認に半日、作業は内容しだい
- 人数
- 1人でも可(壁紙・突っ張り棚は2人が楽)
- 自分でやる費用
- 数千円〜3万円程度(6畳の壁1面〜床全体)
- 業者に頼む費用
- 退去時のクロス張替えは㎡単価×面積×負担割合で精算
※費用は材料のグレードや地域、現場の状態で変わる目安です。
この記事の目次
使う道具
- スマートフォンのカメラ(入居時・作業前後の記録用)
- 下地センサー(突っ張り棚の天井下地を探す)
- マスキングテープ(壁紙の接着テストや養生に)
- メジャー
用意する材料
- 貼ってはがせる壁紙(弱粘着シール・水で貼るタイプなど)
- 置くだけタイプの床材(はめ込み式フロアタイル・吸着マット等)
- 突っ張り用アジャスター+2×4材
部屋の雰囲気を変えたい、収納を増やしたい。でも賃貸だから、退去のときに高額な請求をされないか気になる。賃貸DIYで迷うのは、たいてい「どこまでならやっていいのか」の線引きです。
この線引きは感覚で決めるものではなく、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」と、自分の賃貸借契約書から逆算できます。先にルールを押さえておけば、「これは気にせずやっていい」「これは承諾を取る」「これは手を出さない」が自然に分かれます。
原状回復の基本ルール(国交省ガイドライン)
原状回復は「入居時の状態に戻すこと」ではない
ガイドラインは原状回復を、借主の住まい方・使い方によって生じた損耗のうち、故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧することと定義しています。
一方で、日焼けなどの経年変化や、普通に暮らしていて生じる損耗(通常損耗)の修繕費用は、家賃に含まれているという整理です。つまり「借りたときのピカピカの状態に戻す義務」があるわけではありません。
貸主負担と借主負担の例
ガイドラインには、どちらの負担になるかの一覧(修繕分担表)が載っています。DIYに関係が深い壁・床まわりを抜き出すと次のとおりです。
| 部位 | 貸主負担(通常損耗・経年変化) | 借主負担(通常の使用を超える損耗) |
|---|---|---|
| 壁・天井 | 画鋲・ピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度) | くぎ穴・ネジ穴(重量物をかけるためのもので、下地ボードの張替えが必要な程度) |
| 壁・天井 | 壁に貼ったポスターや絵画の跡 | 借主が天井に直接つけた照明器具の跡 |
| 壁・天井 | テレビ・冷蔵庫裏の黒ずみ(電気ヤケ)、日照によるクロスの変色 | タバコのヤニ・臭い、落書きなど故意の毀損 |
| 壁・天井 | 借主所有のエアコン設置によるビス穴・跡 | 結露を放置して広がったカビ・シミ |
| 床 | 家具の設置によるへこみ・設置跡 | 引越し作業などでつけた引っかきキズ |
| 床 | 日照による畳の変色・フローリングの色落ち | 飲み物をこぼした後の手入れ不足によるシミ・カビ |
DIYで特に効いてくるのは1行目です。画鋲程度の穴は通常損耗、重い物を掛けるためのネジ穴は借主負担。ピクチャーレールや棚をビスで壁に留める作業は、後者に入りやすいと考えておきましょう。
経過年数と「一面分」の考え方
借主負担になる場合でも、全額を払うわけではありません。ガイドラインでは、クロス(壁紙)は6年で残存価値1円になる考え方で、住んだ年数が長いほど借主の負担割合が下がります。
また負担の範囲は、クロスなら**㎡単位が望ましく、毀損させた箇所を含む一面分まで**は借主負担もやむをえない、という整理です。色合わせのために部屋全体を張り替える費用まで借主が負うのは妥当ではない、とされています(喫煙で部屋全体が変色した場合などを除く)。
国交省の参考資料には計算例があり、8畳の部屋で新品のクロスに4年住み、左右の壁2面(計20㎡)を傷つけた場合、20㎡×1,200円/㎡×33.3%=約8,000円が借主負担の目安として示されています。ここでの1,200円/㎡は事例のために設定された単価で、実際の工事単価が高くても直ちに不当とは限らない、という注記つきです。
賃貸でできるDIY・できないDIY
ルールを踏まえると、賃貸のDIYは3つに分けられます。
| 区分 | 具体例 | 考え方 |
|---|---|---|
| そのままできる | 家具・ラグ・カーテンの交換、置くだけの床材、弱粘着の貼ってはがせる壁紙(小面積)、画鋲・細いピンでの飾り付け、突っ張り式の収納 | 跡を残さず撤去できる。ただし試し貼り・設置場所の確認は必要 |
| 承諾を取ってから | 壁紙の張り替え・上貼り、壁へのビス留め(棚・ピクチャーレール)、ペンキ塗装、床材の接着施工、ドアノブや照明器具の交換 | 標準契約書では「模様替」などは貸主の書面による承諾が必要。原状回復の方法まで決めておく |
| 自分ではやらない | コンセント増設・配線の変更、ガス機器の設置、壁を壊す・間仕切りを撤去する、水まわり設備の交換 | 資格が必要、または建物・設備そのものに手を入れる工事。貸主経由で手配する |
国交省の賃貸住宅標準契約書では、借主は貸主の書面による承諾を得ずに、増築・改築・移転・改造・模様替をしてはならないと定められています(第8条第2項)。自分の契約書もこのひな形に近い条文になっていることが多いので、「承諾を取ってから」の作業は口頭ではなく書面かメールで残しておくのが安全です。
資格が必要な作業の範囲は資格が必要な住まいの工事まとめ、持ち家も含めた全体像はリフォームで自分でできること・できないことで整理しています。
賃貸DIYの定番3つと注意点
貼ってはがせる壁紙
賃貸向けとして売られている壁紙には、弱粘着のシールタイプ、水で貼れるタイプ、フリース壁紙を「はがせるのり」で貼るタイプなどがあります。
ただし販売店の壁紙屋本舗も、**「100%原状回復が保証されるアイテムは存在しない」**と明記しています。特に次の2点は要注意です。
- 防汚・撥水などのコーティングがされた機能性ビニール壁紙には、シールものりもうまく付かないことがある
- マスキングテープやセロハンテープが抵抗なくはがれてしまう壁は、付きにくいサイン
「壁紙を本格的に張り替えたい」場合は、手順も道具も別物です。承諾を取ったうえで壁紙の張り替えを自分でやる手順を参考にしてください。
置くだけ床(フロアタイル・クッションフロア)
はめ込み式のフロアタイルや、接着剤を使わずに敷くクッションフロアは、賃貸で床の印象を変える定番です。接着剤や両面テープで床に固定する施工は、はがすときに床材を傷めやすいので、賃貸では避けるのが無難です。
置くだけの床材はズレやすく、季節で隙間が変わることもあります。床暖房のある部屋では、対応をうたっていない製品は使わないようにしましょう。敷き方や道具はクッションフロアの貼り方で詳しく扱っています。
突っ張り棚(2×4材+アジャスター)
2×4材の上下にアジャスターを付けて床と天井で突っ張り、柱を立てて棚を作る方法です。壁にビスを打たずに済むのが賃貸向きの理由です。
メーカーの平安伸銅工業は、設置前後の注意として次のような点を挙げています。
- 天井を叩いて音を確かめ、下地のある位置(鈍い音がする場所)で突っ張る。下地センサーを使うとより確実
- じゅうたん・畳・クッションフロアの上には設置できない(沈み込んで転倒の危険がある)
- 取り付けの2〜3日後、その後も週1回程度は緩みを確認し、締め直す
「置くだけ床の上に突っ張り棚」は、メーカーが禁止している組み合わせです。両方やりたいときは、柱を立てる位置だけ床材を敷かないようにします。
DIYを始める前の手順

契約書と特約を読み直す
「原状回復」「禁止事項」「特約」の欄を確認します。画鋲の使用禁止や、クロスの張替え費用を借主負担とする特約が入っていることもあります。
入居時の状態を写真で残す
ガイドラインは、原状回復のトラブルを退去時(出口)ではなく入居時(入口)の問題として捉え、入退去時に物件の状況をよく確認しておくことを勧めています。すでに住んでいる場合も、DIYに手を付ける前の状態を日付入りで撮っておきましょう。
管理会社・貸主に確認する
「そのままできる」以外の作業は、作業前に問い合わせます。確認したい項目は次の章にまとめました。
目立たない場所で試す
壁紙・床材・粘着フックなどは、目立たない場所で数日試してから本番に進みます。
退去の前に外して状態を確認する
退去立ち会いの前に自分で撤去し、のり残りや跡がないかを確認します。問題があれば自己流で補修せず、先に管理会社へ相談した方が話がこじれにくくなります。
管理会社に確認すべきこと
問い合わせは電話より、記録が残るメールや問い合わせフォームがおすすめです。
- やりたい作業の内容:場所・範囲・使う材料(「リビングの壁1面に、はがせるのりで壁紙を貼りたい」など具体的に)
- 承諾の有無と方法:書面が必要か、メールの返信で足りるか
- 退去時の扱い:元に戻す必要があるか、そのまま残してよいか
- 原状回復の方法と費用負担:自分で戻すのか、業者手配になるのか。その場合の費用は誰が持つか
- 元の壁紙・床材の品番:自分で戻す場合に同じものを用意できるか
- 禁止事項:画鋲・粘着フック・突っ張り器具の使用可否
もっと自由にやりたいなら「DIY可物件」
壁紙を張り替えたい、棚をビスで留めたいなど、元に戻すのが前提では難しいDIYをしたいなら、最初からDIY可の物件を選ぶ方法があります。
国土交通省は、借主の意向を反映して住宅の改修ができる賃貸借を「DIY型賃貸借」と呼び、2016年4月に契約書式例とガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」を公表しました(2018年3月に書式例を改定し、家主向けの実務の手引きも作成)。工事は借主自身が行う場合も、業者に頼む場合もあります。
DIY型賃貸借の書式例では、次のような流れと取り決めが想定されています。
- 借主が希望する改修内容を貸主に申請し、貸主が承諾したうえで合意書を交わす
- 取り決めるのは、改修の内容、明渡し時の原状回復の有無、費用の負担者
- 工事前後の状況は写真などで記録しておく
国交省のガイドブックでは、借主が費用を負担する分、家賃を相場より抑えたり、退去時の原状回復をなしにしたりする形も紹介されています。条件は物件ごとに違うので、「DIY可」とあっても、どこまでが可なのかは契約前に必ず確認しましょう。
まとめ:迷ったら「元に戻せるか」と「書面があるか」
賃貸DIYの可否は、次の2つの問いでほぼ判断できます。
- 退去時に、跡を残さず自分で元に戻せるか
- 戻せない(または戻す自信がない)なら、貸主の書面による承諾があるか
どちらも満たさない作業は、賃貸では手を出さない方が結果的に安く済みます。どうしてもやりたい内容があるなら、承諾を取るか、次の住まいをDIY可物件から探すのが確実です。
こうなったら業者に頼む
- 壁に穴を開ける・壁紙を張り替えるなど、原状回復が必要な作業をしたい(まず貸主の書面承諾。退去時の復旧は業者手配になることが多い)
- コンセント増設や照明の配線など電気工事が絡む(資格が必要。貸主経由で手配する)
- 貼ってはがせる壁紙をはがしたら元の壁紙が破れた・のりが残った(自分で補修せず管理会社に相談)
- 水まわりの部品交換をしたい(設備は貸主の所有物。故障なら貸主の修繕が原則)
無理に続けて傷口を広げると、最初から頼むより高くつくことがあります。見積もりは2〜3社から取ると相場がつかめます。
よくある質問
画鋲の穴は退去時に請求されますか?
貼ってはがせる壁紙なら無断で貼っても大丈夫?
突っ張り棚で天井が傷んだら?
自分で貼った壁紙を退去時にそのまま残していい?
経過年数でクロスの負担はどれくらい減りますか?
参考にした資料
※本記事は2026年9月28日時点の情報にもとづく一般的な解説です。作業はご自身の判断と責任で行い、製品の取扱説明書・施工説明書の指示を優先してください。電気・ガス・給水装置の工事など資格が必要な作業は、有資格者や指定業者に依頼してください。